M&Aアーンアウト条項の失敗事例と紛争予防のポイント|アーンアウト条項トラブルを避けるには

アーンアウト失敗事例を押さえる意味と本記事の位置づけ

「M&A アーン アウト 失敗」「アーン アウト 条項 トラブル」と検索する方は、すでにアーンアウト条項を導入したM&Aが進行中、あるいはクロージング後の対価を巡って相手方と対立しつつあることが少なくありません。

アーンアウト条項は、企業価値評価のギャップを埋めたり、売り手経営陣にインセンティブを与えたりするための便利な仕組みですが、その設計や運用を誤ると、かえって深刻なM&A アーン アウト 紛争の原因になります。

  • どのようなパターンでアーンアウト条項が紛争に発展しやすいのか
  • 典型的な失敗例では、どの条文・どの運用が問題になったのか
  • 紛争になったときに、どのような法的論点や実務上のハードルがあるのか
  • 失敗事例から逆算して、ドラフト・PMIで何を押さえればよいのか

本記事は、**アーンアウト条項とは何か【M&A対価の分割・条件付支払】**で押さえた基本を前提に、「失敗事例」と「紛争予防」の観点に絞って整理するものです。対価スキーム全体の位置づけや価格調整条項・エスクローとの関係は、アーンアウト・価格調整・エスクローをめぐるM&A対価トラブルと併せて確認すると理解が深まります。

アーンアウト条項は、「入れるか・入れないか」だけでなく、「入れた後にどう運用されるか」まで含めて設計する必要があります。失敗パターンを知ることは、最初の一歩です。

坂尾陽弁護士

アーンアウト条項で既にトラブルになっている方や導入に不安を持っている方は必見です!

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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M&Aアーンアウトでよくある失敗パターン

まず、M&A アーン アウト 失敗の全体像をイメージするために、よく見られるパターンを整理します。

  • 指標・算定方法が曖昧なまま導入してしまう
    EBITDA・営業利益・売上などの指標の定義や、控除・調整項目が十分に詰め切れておらず、「どこまでを対象とするか」で対立するケース。
  • PMIの方針とアーンアウト条件が矛盾している
    買い手の統合方針(統合・縮小・事業転換など)が、短期的なアーンアウト条件の達成と両立せず、「買い手の経営判断とアーンアウトの保護」を巡って争いになるケース。
  • 売り手の関与・責任範囲が曖昧なまま残ってしまう
    売り手経営陣がどのポジションでどこまで権限を持つのかが曖昧なため、「責任は負わせるが権限は与えない」状態になり、不満や紛争につながるケース。
  • 情報開示・検証プロセスが不十分
    買い手が算定したアーンアウト金額について、売り手側が十分な資料を見られない、短い異議申立て期限を徒過してしまうなど、「争いたくても争えない」構造になるケース。
  • 他条項(価格調整・表明保証・責任制限)との整合性が崩れている
    価格調整条項や表明保証違反による損害賠償と、アーンアウトの基礎数字が相互に影響し合うのに、その関係が契約上整理されておらず、「二重カウント」や「完全に抜けてしまう部分」が発生するケース。
MEMO

アーンアウト条項は、「対価の算定方法」だけの問題ではありません。PMI(統合)の方針、人事・組織、管理会計の運用、情報開示のあり方など、契約条文の外側にある要素と強く結びついています。

ケース別に見るアーンアウト条項トラブルの具体像

ここでは、実務でよく見られる構図を、具体的な事例ベースで3パターン紹介します。いずれも、「どこが弱かったのか」を意識してご覧ください。

■ケース1:投資費用の扱いが不明確だった例

  • 指標:EBITDA
  • 測定期間:クロージング後2年間
  • 条件:各年度EBITDAが3億円を超えた場合、その超過額の2倍を追加対価として支払う

というアーンアウト条項を結んだケースを想定します。

買い手はクロージング後、事業の拡大を見据えて大規模なシステム投資や広告投資を行い、短期的にはEBITDAが圧迫されました。売り手は「中長期的には利益拡大につながる投資であり、アーンアウト判定の際には『異常・一時的費用』として調整されるべきだ」と主張。一方、買い手は「通常の営業活動の一環であり、EBITDAに含まれるのが前提」と反論します。

契約書上、EBITDAの定義は一般的な会計用語にとどまり、「どの費用を控除するか」「一時的・例外的費用の扱い」についての具体的な定めがありませんでした。その結果、

  • 売り手:投資費用を調整した“調整EBITDA”で判定すべき
  • 買い手:会計上のEBITDAをそのまま使うべき

という構図のアーンアウト紛争に発展します。

ポイント

  • 指標の定義が一般的・抽象的すぎると、実務上よくある投資・リストラ費用などの扱いで必ず揉めます。
  • 契約書レベルで、「どの費用は調整対象か」「誰がどの範囲で裁量を持つか」を詰める必要があります。

■ケース2:PMIで事業統合した結果、売上が減少した例

別のケースとして、買い手が同業他社であり、クロージング後にターゲット会社をグループ内の他社に統合するPMI方針をとった例を想定します。

  • アーンアウトは、ターゲット会社単体の売上高を基準に設定
  • クロージング後1年目の途中で、主要顧客との取引窓口を買い手側の別会社に移管

したところ、ターゲット会社の売上は当然のことながら減少しました。その結果、アーンアウト条件を達成できず、売り手は「アーンアウトを潰すようなPMIを行ったのは契約違反だ」と主張します。

一方、買い手は「グループ全体の効率化のための合理的なPMIであり、契約上もアーンアウトのために事業構造を維持すべき義務までは負っていない」と反論。

契約書には、

  • 「重要な資産・契約を第三者に移転しない」程度の一般的なコベナンツはあったものの、
  • 「アーンアウト期間中に、アーンアウト条件の達成を不当に妨げるような行為をしてはならない」といった、アーンアウト保護に特化した条文はなし

という状況でした。

ポイント

  • アーンアウトとPMI方針が矛盾する場合、後からPMIを優先すると「アーンアウトの破壊」と評価され得ます。
  • 買い手の経営裁量とアーンアウト保護のバランスを契約でどこまで明確化するかが鍵です。

■ケース3:情報開示・異議申立て期限を巡るトラブル

第三のケースでは、アーンアウト金額の算定プロセスに関する条文が問題となりました。

  • 買い手は毎期末から60日以内にアーンアウト計算書を売り手に提出
  • 売り手は30日以内に書面で異議を述べない限り、その計算が最終的なものとみなす

という規定がありましたが、売り手側の体制が整っておらず、

  • 計算書提出から30日以内に十分な資料を確認できなかった
  • 内部での検討に時間がかかり、期限後に異議を申し立てた

結果、買い手から「期限徒過により異議申立権を失っている」と主張され、実質的に争えなくなってしまいました。

ポイント

  • 異議申立て期限・資料閲覧権限・第三者専門家決定の有無など、プロセス設計を甘く見ると、実質的に争う機会を失うリスクがあります。
  • 売り手側でも、「誰がどの期限でどこまで検証するか」という運用体制を事前に決めておく必要があります。

これらのケースはいずれも、「あと一歩、契約や運用を詰めていれば紛争を回避できた可能性が高い」類型です。失敗事例から、自社のケースに似ていないかを点検してみてください。

坂尾陽弁護士

現実にアーンアウト条項の解釈を巡るトラブルは生じることが少なくありません。

紛争になったときの法的論点と実務上のハードル

M&A アーンアウト 紛争に発展した場合、単に「条件を満たした/満たしていない」という事実の問題だけでなく、さまざまな法的論点・実務的ハードルが出てきます。

■契約解釈と買い手の裁量

アーンアウト条項は、多くの場合、

  • アーンアウトの基礎となる指標・計算式
  • 買い手の経営判断に関する一般的な規定
  • 善管注意義務・信義則といった一般原則

が複雑に絡み合います。

売り手は、「買い手がアーンアウトを達成できないような経営判断を意図的に行った」と主張し、買い手は「合理的な経営判断の範囲内であり、アーンアウトのために事業構造を固定する義務は負っていない」と反論する構図です。

■立証の難しさ

アーンアウト紛争では、

  • 「別の合理的な選択肢があったのか」
  • 「アーンアウトへの影響をどこまで認識していたのか」
  • 「短期と長期の利益をどう比較衡量したのか」

といった、経営判断の内容に踏み込んだ立証が問題となることがあります。これは、通常の債務不履行訴訟以上に、ビジネス・会計の理解が求められる場面です。

■異議申立て期限・専門家決定条項の影響

アーンアウト条項には、

  • 計算書提示後〇日以内に異議を述べる必要がある
  • 意見が対立した場合は第三者会計士の決定に従う

といったプロセス条項が置かれていることもあり、これをどう解釈するかも重要な論点です。

注意

異議申立て期限を徒過すると、「計算結果に同意した」とみなされ、後からアーンアウト金額の争いを持ち出すことが極めて難しくなることがあります。疑問があれば、期限内に最低限の異議を出し、資料開示を求めるなどの初動が重要です。

■紛争解決手段の選択

M&A契約では、専属的合意管轄や仲裁合意など、紛争解決条項が置かれているのが通常です。アーンアウト条項トラブルもこれに従うことになります。

  • 裁判か仲裁かで、手続のスピード・柔軟性・専門性は大きく異なる
  • クロスボーダー案件では、準拠法・仲裁地・仲裁機関の選択が結果に影響し得る

といった点も含め、**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**といった紛争解決のまとめページも確認しておく必要があります。

アーンアウト条項の紛争を予防するチェックポイント

ここまでの失敗事例・紛争構造を踏まえ、アーンアウト条項を検討するときに意識したい予防策を整理します。

  • 指標の定義・調整項目を可能な限り具体化する
    EBITDA・利益・売上などの指標について、どの勘定科目を含めるか/除外するか、一時的・異常な費用やグループ内部取引をどう扱うかを条文レベルで明記する。
  • PMI方針とアーンアウト条件の整合性を検証する
    統合・再編・縮小などのPMI計画が、アーンアウト条件の達成と矛盾していないかを事前に検証し、必要に応じて「アーンアウト保護」に関するコベナンツを置く。
  • 売り手経営陣の権限・責任範囲を明確にする
    アーンアウト期間中に売り手経営陣がどのポジションで、どの程度経営に関与するのかを役職・権限のレベルで明確にし、「責任だけ負う/権限だけ持つ」状態を避ける。
  • 情報開示・検証プロセスとタイムラインを設計する
    計算書提出期限、売り手の異議申立て期限、資料閲覧・コピー権限、第三者専門家決定の有無・拘束力など、プロセスを具体的に設計し、「形式的な期限徒過で争えない」事態を防ぐ。
  • 価格調整条項・表明保証・責任制限との関係を整理する
    アーンアウトの基礎数字と、価格調整条項・簿外債務・表明保証違反・責任制限条項(キャップ・バスケットなど)との関係を整理し、「二重カウント」「抜け落ち」が生じないようにする。これは表明保証違反と損害賠償額・責任制限条項の実務などの論点とも密接に関連します。

アーンアウト条項は、「夢を語る条文」ではなく、「最悪のシナリオでも読み返される条文」です。うまくいかなかったときに、条文と運用がどう評価されるかをイメージしながら設計できると、紛争リスクを大きく下げられます。

坂尾陽弁護士

想定の上振れケースだけでなく、下振れケースや最悪の事態もしっかり想定する必要があります!

最後に、本記事の要点を簡単に振り返ります。

  • M&A アーン アウト 失敗の多くは、指標・算定方法の曖昧さ、PMI方針との矛盾、情報開示プロセスの不備など、契約と運用の「すり合わせ不足」から生じる。
  • アーン アウト 条項 トラブルでは、買い手の経営裁量とアーンアウト保護のバランス、異議申立て期限や専門家決定条項の効力など、契約解釈と実務運用が複雑に絡み合う。
  • 予防のためには、指標定義の具体化、PMIと条件の整合性チェック、売り手経営陣の権限・責任の明確化、情報開示・検証プロセスの設計、他条項との整合性の確保が重要となる。
  • アーンアウト条項の基礎はアーンアウト条項とは何か【M&A対価の分割・条件付支払】で押さえたうえで、本記事の失敗パターン・予防策と、対価スキーム全体を扱うアーンアウト・価格調整・エスクローをめぐるM&A対価トラブルを併せて検討することで、より実務的な設計がしやすくなる。

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